episode2
契約を交わした日以来、彼には会っていない。
時が経ち、貴族として生活していた頃とはかけ離れた貧しく質素な生活をおくっているが、
子供達と過ごすささやかな時間が私の悲しみを癒していった。
誰も助けてくれる人は居なかった。時間だけが私を救ってくれた気がした。
私は家族と一緒に革命によって死ぬべき存在だった。
だから、
今、
何事もなく1日を過ごせる事に幸せを感じた
「モニカ。久しぶりだ。」
先生は私の肩を優しく触れた。落ち着いた声が私の耳元で囁かれる。
「久しぶりね。何をしていたの…」
「少しばかり街に出ようか」
彼は昔から私の話を聞いてくれようとはしなかった。いつも別の話にすり替えられてしまう。
私達は街に出た。この街は治安が悪い。
日々、暴力や窃盗が横行し、女性達は望まない子供を身ごもってしまう。
それが子供達が孤児院に入る経緯なのだ。
薄汚れた建物にネオンがともりだした頃、
先生と私は街はずれのチャイナタウンに来ていた。
「この店に入ろう」
先生の選んだ店はここら辺では一般的な中華料理屋だった。
「いらっしゃい。久しぶりじゃねーか」
「ああ。ここ、座らせてもらうよ」
先生と会話を交わす男は恰幅が良く、この店の店主らしき人だった。しかし彼は店先で私達を迎えてからも、麻雀台から厨房に移る気配はなかった。
「どうしてここに?」
「モニカ、君に伝えたいことがあるんだ。
…もしかしたら、
君は家に帰れるかもしれない。
内密な話ゆえ、あいつがいない所、誰も知らないような場所で話す必要があった」
声を潜めて先生は言った。正直、嬉しかった。
先生がいなければ私は死んでいただろうし、彼は私の願いを叶える手伝いをしてくれていた。
「それで…どうやって」
「孤児院の全てのデータは、あの書斎にあるんだ。
それを見つけて欲しいんだ。
そうすれば、君の家に帰る手段が見つかるかもしれない」
「それじゃあ。私は、忍び込めば良いということ?」
「やはり物分かりがいいね。君は」
彼は満足気に私の頭を撫でた。子供の頃私が風邪を引いて寝込んだ時のように。優しく、その大きな手で。
私達は計画を細かく練った。
私は彼が書斎からいなくなる時間、行動パターンを毎日記録した。気付かれないように、時には媚を売るような事もした。
"全てはあの家に帰るため"
完璧な計画ができる頃には、
革命から半年が経とうとしていた。