episode3
計画決行の日は日差しの強い5月のことだった
彼は天気がいいと外で無邪気に遊ぶ子供達を眺めながら、タバコを吸う。きっと彼にとってそれが一番の安らぎなのかもしれない。
私は先生に言われた通り、彼のベストのポケットに収まっている書斎の鍵を取る為に彼に声をかけた。
「今日もそこに座ってタバコをふかしてるわけ?」
「…ああ。わるいか?」
「その。私も…吸ってみたいの。」
「こんな身体に悪いもん吸っても死期が早まるだけだぞ?ただでさえ身体が弱いくせして」
「いいじゃない。貴族だった頃は身体に悪い事もできなかったでしょ…?今なら誰に何を言われようと私の身体は私のもの…ね?」
肩に頭を乗せるとフワッとタバコの匂いが広がる。酔いそうなほどキツく、でもそれは彼が目の前にいることを証明するものでもあった。
「重い。こっち向け」
「なに?______
フッ…
「これで満足だろ…?」
彼にタバコの煙を顔に吹かれたのは一瞬の事で
近づいてくる彼の顔、前髪からうっすらと明るい色の目が見えた。
「もう、いい。」
「君が色仕掛けで僕を出し抜こうなんて100年早いさ。はは。」
_____いいの。目的は達成されたから。
彼は空を見上げ、また私はいなかったかの様にタバコをぼーっとふかしはじめた。
長い廊下を抜け、大きなドアの鍵を差し込む。
全ては順調。先生の言っていることは間違いじゃなかった。
ガチャリ…
私の小さな希望が音を立てた瞬間だった。
薄暗い書斎にはいり本棚を漁る。古い書物から、メモの端くれまで全て見尽くした。
一冊の本を手に取ろうとした時、手応えを感じた。他の本とは違う何かを。
ギィィィィ…
部屋の反対側みると、そこにはどこか別の部屋に繋がる入り口が現れたのだった。
かなりの音を立てて開いたこのドア。バレてしまわない様に、急いでドアに続く階段を下った。
「…なに。これ…」
______全部全部、あなたのせいだったのね。
広がる部屋の壁を見渡すと、そこには私の住んでいた地域の地図に、私の写真、私の家族の写真、どんな家族で、どういう風に過ごしているか、報告書がそこらじゅうに貼られていた。
______燃える家、クリスマス、革命、
彼は私の家族の全てを知っていた。
私以外の全てを葬り去るために。
カチッ…
「僕は君の全てを知っている。だから君がここに来て真実に気づく事も知っていた。」
背中越しに拳銃を突きつけらた。
冷たい。
嗚咽混じりに
振り絞ってでた言葉は意外なもので。
「どうして…。どうして…
私を殺してくれなかったの…」