episode10

「久しぶりだな。みんな」

 

続々と部屋に集まってくる。

 

「お嬢ちゃん、今朝ぶりだね」

 

リュウさん!…なんだかスーツを着ると雰囲気が変わるのね」

 

黒ずくめで部屋に入ってくる彼らはとても洗練されていたと同時に不気味なオーラをまとっていた。

 

「モニカ、君はここに座るといいよ。」

 

「先生。お久しぶりです。先生も、マフィアのメンバーなんですね…なんか、そういう風には見えないというか。複雑というか…」

 

「日頃は街の小さな診療所で普通に子供達なんかを診てるからね。マフィアだなんて思われないようにはしてるさ」

 

「そう…だったんですね。

そういえば、話って」

 

「君は聞いてるだけでいいさ。」

 

「…ええ。」

 

「さぁ、1番最後は誰かな」

 

ジェラルドが小さな声で呟いたのが私の耳に届いた。

 

「ごめんごめん。僕は日頃ここにいない身なんだから。急に呼び出すなんて、やめてくれよ」

 

「わかってるだろう?おまえが1番情報掴むのが早いくせに、1番最後にご登場とはね」

 

「ジェラルド。いいだろう?ギリギリまで情報を仕入れてから来たんだから」

 

「ああ。べつに怒ってはいないさ。

さっさと座れ」

 

全員が大きなテーブルを囲むように座ると、ジェラルドは口を開いた。

 

「わかってると思うが。

俺らは追われる身だ。あとは、シャルに説明を任せる」

 

「やぁ、みんな、お久しぶり_____「さっさと話せよ白髪」

 

「まぁまぁ、エルヴィス、話すから急かさないでくれ。」

 

「それでは本題に入ろう。彼がせっかちみたいだからね。革命から一年が経とうとしている。今、隣国の民主政治はうまくいっていない。むしろマフィアが裏で手を引いて政治はマフィアによって操られ、彼らに有利な法律が出来たりと、最悪だ。」

 

「それはみんな知ってることだろう?」

 

リュウさんはいつも通りの話し方でシャルルに言葉を投げかけた。緊張していた私は少し安堵した。

 

「話はここからさ。その後、あちら側の警察はマフィアに買収され、僕たちに麻薬売買の罪をなすりつけられ、僕らは隣の国の警察とこの国の警察、どちらにも追われてる。」

 

「…てことは。私たちの味方はいないってこと…?」

 

「そうだ。大正解。」

ジェラルドは焦るそぶりもせず私に向かって頷いた。ジャンニーノはその後すぐに話を切り出した。

 

「警察、そして機動隊、マフィア対策のエリート連中らを含めると、ざっと1000、俺らに逃げ道はないっぽいね」

 

「四面楚歌ってことか…」

 

彼らは落ち着いた口調で次々に口を開く。

 

「わかってるよな。おまえら」

 

ジェラルドの大きな声が部屋に響く。私の顔を指しながらかれは言った。

 

「こいつ、モニカ エルヴェシウスを死なせるな

これが俺たちの最後の仕事だ」

 

「やっぱ納得できねー。ジェラルド、おまえがあんなガキに執着する理由がどうしても分からねーし。邪魔でしかない」

 

エルヴィスは私を睨みながらそういった。

 

「特に理由はねーよ。金を積んでもらってるからさ。孤児院の金もあいつの家族がくれたんだ

仕事は最後まで全うするのが俺らのルールだ」

 

「…私はこの孤児院を守りたいです。皆さんは散り散りになって逃げてください。」

 

「モニカ、君も逃げるんだ。隠れ家があるから、そっちに僕やヴィヴィと一緒に。」

 

「そうですよ!あまりにも危険すぎます!」

 

アンリやヴィヴィは逃げようと口を揃えて言った。

 

「私は今まで守られ続けてきた。両親、ジェラルド、色んな人に。私はこの孤児院の子供達やここにある幸せを命を落としたとしても守りたい」

 

この一年の間に私の中でこの孤児院は私を癒し、小さな幸せを見出すことの出来る大事なとなっていたのだ。

 

「いいや。君も逃げるんだ。」

 

「どうして…!私は______「逃げるか、死ぬかだ。」

 

私はジェラルドに銃を突きつけられた。銃口はひんやりと冷たかった。

 

「今選べ。_____「私は____」

 

「おまえがここに来なければ、おまえの両親が俺らの所に来さえしなければ!俺らのファミリーはこの街で国がらみの陰謀になんか巻き込まれずに生きたいられたさ!命をかけてなんて軽々しく言いやがって、守れる力もないくせに」

 

言い返す言葉もなかった。彼らの一員になった気でいた私はその時無力さを自覚した。

 

「…ごめんなさい。」

 

銃口を下ろしてかれは耳元で呟いた。

 

「…もう少しだけ悪者でいさせてくれ。」

 

ジェラルドはイスにかけてあったジャケットを取り部屋を出ていってしまった。

 

episode9

「おかえり。書斎の奥、あの部屋で話そう」

 

「ええ。そうね」

 

部屋に入ると以前と変わらない様子で壁じゅうに資料やメモが貼られていた。

 

「それで、真相はどうなのよ?」

 

「そうだな。結果から話すと、革命に誘導していったのは俺らや、アイツらの家の家臣だよ、

自作自演ってわけだ。」

 

「それで、細かく最初から話すと?」

 

「去年の2月だ、アンリの兄ちゃんがコネクションを作り出してから少し経った頃、変な薬が流通しだした。」

 

「あの、ゾンビ…、?」

 

「そうだー!よく分かってるじゃないか。

あれは中国からしか輸出されていないもので、特定に時間はかからなかったし、アイツが中国系と手を組んでるのはすぐ分かった。アイツらは儲けれるなら手段を選ばない。アンリの兄ちゃんはうまく利用されたってだけで、アイツは正直言って悪くない」

 

「じゃあ、

彼は死ぬ必要はなかったじゃない!」

 

「俺らは別に手にかけようとは思ってないさ、

操られてるのに気づかずに勝手に革命を起こしてアンリの家族やその他の貴族を断頭台に引きずり出したのも国民だ。」

 

「…。でも、国の治安は日に日に悪くなってる

崩壊も時間の問題だわ」

 

「さぁな。俺らは隣の国の治安なんて知らないし関係ない。__________「創造的破壊です」

 

「ヴィヴィ…」

 

「すいません。お話に割り込んでしまって。

お嬢様がおっしゃる通り、国の崩壊は目前。」

 

「ヴィヴィ…それでいいの…?」

 

「いいのです。アンリ様のお兄様の一件からアンリ様のご家族はマフィアとの関係を全て断ち切り、国を立て直す事をご決断されました。

マフィアと関係を断つ事はそう簡単な事ではありません。

アンリ様のご両親、そして、数少ない協力者であるモニカ様のご両親が集まり、

何度も何度も話し合われていました。

しかし、良い解決策は見つからず…。

新しい国をつくるには、

王族は一度国民の前で滅びる事で、全ての関係を絶つしかなかった。私達は国に戻れるか…」

 

「どうしてそれを早く伝えてくれなかったの…アンリを呼び出して…。はやく!!」

 

「できません!彼自身も貴方と同じ。両親を失った時、ここに来るまで全てを知らなかった

私達には何もできない」

 

「じゃあ…ここで、国が壊れていくのを黙って見ていろというの…?」

 

涙をこらえる為に目を閉じると頭の中で、家族と過ごした家や、弟と遊んだ庭、街の風景が走馬灯の様に流れた。

 

「誰も実行なんてしたくなかった!

でも、ご両親はあの国の未来を貴方やアンリ様に託した。あなた方がいつか、あの国に戻れるように、国民を導けるように。隣国のマフィアを頼ってまでお嬢様や、アンリ様を守られたんです。」

 

「そういう事だ。モニカ、」

 

「……。私。どうしたらいいか…」

 

_____身体に…に力が入らない。

 

膝から崩れ落ちながら

クリスマスの日が溢れる涙と共に蘇る。

 

とどまろうとした私の肩を強く押して

"貴方は生きるの" そう私に叫びながら

革命軍に捕らえられる母の腕を必死にひっぱった。喧騒の中、

"家を…燃やしてちょうだい。それが貴方のためなの。分かった…?分かってちょうだい。"

この言葉が私の耳に残る母の最期の言葉だった

言われた通り、私は家に火を放った。

 

「ごめんなさい…。全てを知っていたら、私は…家族を守れたかもしれないのに…」

 

しゃがみこむ私と同じ目線の高さになるように

ジェラルドは身体を折り曲げた。

 

「全てを知っていても、

何も変わらなかったさ。いいか。モニカ、

創造的破壊だ。新しい風を通すには古い壁をぶち壊さなくちゃならない。これはおまえの両親がおまえの為に選んだ最善だったんだ。

立て。こんな事でメソメソしてる時間はねーんだ」

 

「おい、ジェラルド!」

 

部屋に響くジャンの声に私達は顔を上げた。

 

「ああ。分かってる」

 

「ほら、な?俺らに時間はねーんだ」

 

「…どういうことよ。」

 

「ジャン。

全員この部屋に呼んできてくれないか」

 

 

 

 

episode8

真っ暗な街に太陽が昇り始めた頃、

シャッターの開いたガラス張りの店に自然の明かりが差し込む。

目が覚めると毛布がかけられていた。

 

_______どうしてあんなに疑ってたんだか…

 

「おはようございます。お嬢ちゃん」

 

「おはよう。リュウさん」

 

「昨日の夕飯がパーになったから、俺から2人を朝飯に招待したんだ、いいかな?」

 

「ええ。」

 

カランカラン…

 

「おはよ。モニカ、久しぶりだね」

 

「アンリ!!!会いたかった…」

 

昔のように自然と抱擁を交わす。死んだと思っていた人を再びこの腕で抱きしめる事に大きな幸せを感じた。

 

「君も生きていたんだね。良かった」

 

「本当に良かった。

早く国に帰れるといいわね…」

 

「帰れるかは分からない…。でも、この街で、不自由はしてないから心配ないよ」

 

「あのー。お二人さんよ、そろそろいいかな?」

 

「ごめん____「ごめんなさい」

 

「それでは、席へ」

 

ヴィヴィは私たちの椅子を引いてくれた。

 

「今日は昨日頼んだ物以上に豪華だね。リュウさん?」

 

「ああそうさ!昨日、パーにしちまったからなー。おまえさんが好きなのを全部作っといてやったぜ。ほーら、食べろ食べろ」

 

テーブルに並べられた料理はわたしにはあまり馴染みのないものだったがどれも美味しかった

 

「それで、詳しく話すって言ってた話は?」

 

「私達はマ…「ヴィヴィいいよ。僕から話す」

 

「すいません。お任せします」

 

「これから話す事は君にとっては信じられないことかもしれない。でも、本当の事なんだ。

信じてくれる…?」

 

「ええ。もう嘘としか思えない事に散々振り回されてきたから。私は知れればそれでいいの」

 

「そっか。

僕達王族は昔からマフィアと友好的な関係を築いていたんだ。

主に経済面、貧困層の救済や不景気時の雇用、多岐にわたっていた。」

 

おもむろに話し始めたアンリの話は国の秘密といっても過言ではなかった。

 

「でも、ここ数年で色々変わってしまったんだ

僕に年の少し離れた兄がいるのは知っているよね?モニカ、君も遊んでもらった事あるはず」

 

「ええ。背の高くて、貴方のお父さんによく似た…」

 

「僕の兄…名前を言うのも嫌になってしまうな。兄は次期王として期待され、彼自身もその期待に応えようと必死だった。全てを1人で抱え込もうとしていたんだ。」

 

「それで、お兄さんは…」

 

「彼のその強い想いは裏目に出てしまった。

彼は両親の言う事、側近や大臣の言う事に耳を一度も傾けようとはしなかった。ちょっとした助言が彼には言い付けに聞こえたのかもしれないね。」

 

「そこで、アンリおぼっちゃまのお兄様は自らコネクションを作り始めました。しかし、全てが順調に進むものではなく、国の情勢が悪化しだした頃、そこに漬け込んだのがチャイニーズマフィアでした。」

 

ヴィヴィやアンリが淡々と話す姿は国を動かす人間として当然なのかと、きっと私ならこれほど落ち着いては話せないだろうと思った。

 

「兄は悪い輩の駒にされ、国の治安は悪化、薬と暴力が横行するようになってしまった。

そして…革命が起きた。」

 

カランカラン…

 

「おっと、お嬢ちゃん、俺はこの修羅場には居たくねーなら厨房に退散するぜ」

 

 

 

「正確には、起こしたんだけどな。

お坊ちゃん。相手に伝えるには言葉選びに気をつけなって」

 

「ジェラルド。どうしてここに」

 

「俺も朝飯だよ朝飯。べつにおまえらの話を聞きにきたわけじゃない」

 

「起こしたって…故意にって事?」

 

「ああ。そうさ。お坊ちゃんと両親、そして、そっちにいる、ヴィヴィってやつは、国の崩壊は時間の問題だと悟ったんだ。もちろん、こいつの兄貴は洗脳済みだから聞く耳も持たない。だったら引きずり下ろすのみ…。」

 

「ジェラルド…黙ってくれ」

 

「いいや。黙らない。だからこいつらは俺らに頼った________「おい!ジェラルド!」

 

「黙ってください!ジェラルド様」

 

アンリがジェラルドの胸ぐらを掴みそれをヴィヴィがとめようとする。一瞬の出来事に一気に空気が張り詰めた。アンリがあそこまで憤っているのを私は初めて見た。

 

「おっと、民主主義の王子様、物騒だなぁ。

おまえがどう隠したって、アイツは知るしかねーんだよ。」

 

「だからって。そんな言い方はないだろう?」

 

「…早く話して。

喧嘩なんかせずに早く話してよ」

 

「いや、でも、君は家族を失っているし…」

 

「そんな事なんて関係ない。家族はみんな死んだ、帰ってこない。私は何も知らないまま一年が経とうとしている、そんな状況で、貴方に気を使われて話をいいところだけ切り貼りされるのはありがた迷惑だわ。

アンリ。」

 

「分かったよ。全てを知っているのはジェラルド本人だから、聞くといい。」

 

「僕達はゆっくり朝食を楽しんでおくから、

あいつと一緒に君は行ってくれ…」

 

アンリは普段はつかないため息を深くついていた。

 

「それでは、お嬢様、僕の車へどうぞ?」

 

私たちは店を出た。

 

 

episode 7

何もわからずヴィヴィの運転する車に乗り込んだ。

 

「その…______「お迎えが遅れてしまい申し訳ありませんでした」

 

「大丈夫だけど、、どうして_____「その話は後で詳しくお話しさせていただきますので、これから、このお店で頼んだ物を取りに行きます」

 

渡されたメモ用紙には住所が書かれていた

 

「チャイナタウンの方の住所ね。

中華料理店…?」

 

「そうです。彼の料理をアンリおぼっちゃまは気に入ってくれたようで、今日もあなたと食べる夕食をそちらで選んだらしく、、」

 

この話をしてから、私達の間に会話は生まれなかった。流れる景色が徐々にアジアの街並みに変わっていく。着く頃には細かい雨が降り出していた

 

「着きました。通りが狭いのでモニカ様が取りに行ってもらっても…?」

 

「ええ。いいわ。」

 

小走りで店へと足を進める。

蛍光灯の明かりがやけに明るく感じる程、その店の近辺は暗かった。

 

「こんばんは…」

 

「やぁ。元気にしてたかい?モニカ。」

 

「どうして名前を」

 

「随分前に来てくれただろう?先生と。」

 

「あっ。すいません。覚えていなくて」

 

「いいやー。夜だと雰囲気も変わるから仕方ないよ。_____「あの。頼んでいた…」

 

「あー。重たいけど、車まで持って行こうか?」

 

「すいません。_____「でも、土砂降りだ。」

 

「そうですね。でも私1人で大丈夫です」

 

店主は外を見て突然声色を変えた。

 

「ちょっと。店の中で話しておこう。外は真っ暗だし、地面も滑りやすい。お茶、出すから

座って」

 

「え。ええ。ありがとう」

 

店主はお茶を取りに厨房へと戻って行った。

 

______どうして店に引きとめるのだろう…

 

遠くから店主が電話で話している声が聞こえる。

 

____________もしかして 私をはめる気…?

 

 

「ごめんよ!待たせちゃって」

 

 

「っは…い。いいえ。大丈夫」

 

「その、今日は君は帰れない」

 

「なぜ…!もしかしてあなたは私をはめようと…!」

咄嗟に出入り口のほうに私は後ずさった

 

「そういう事じゃないんだ。信じてくれ。

もう店を閉めないといけなくてね。なるべく早く」

 

彼は素早くシャッターを閉め始めた。

 

「はやく!理由を話して!初めて話した人なんて信じれない!」

 

全てのシャッターを閉め終わると彼は私にお茶を注いで話し始めた。

 

「雨は合図なんだ。」

 

「合図…」

 

「君は僕達のファミリーを知っているよね?

ジェラルドや、警官のジャンとか」

 

「ええ。」

 

「もちろん、俺たち以外にもマフィアってのははあってだな、

多くを俺らが牛耳っているんだが、

この地域だけはチャイニーズマフィアが支配してるんだ。違法薬物の売買で稼いでるんだが…雨が降る日は薬の販売日らしくてな

キマった奴らが薬を求めて出歩くんだよ」

 

「それで…私を。」

 

「そーさ。マトモなおまえさんが気軽に出歩いて生きて帰ってこれるようなもんじゃねー、しかも、近頃ここら辺では、変な薬が流行り出してるんだ」

 

「どんな…」

 

「人をゾンビにしちまう薬だよ、アイツらが流してるらしい。気が狂ったように凶暴化して、使い続けると、徐々に体がゾンビみてーに腐ってくんだとよ。」

 

店主によるとチャイニーズマフィアによるデザイナーズドラックが横行して特に雨の日の夜は出歩けない状態だという。

 

「だから申し訳ねーがモニカお嬢ちゃんよ、

夜が明けるまではここに居てくれないか?」

 

「…わかった。」

 

バンっ!バンっ!

 

「なに!!?」

 

「あぁ、心配するな。外で変なやつがシャッターを叩いてるだけだ。この前は銃弾が貫通したよ」

 

「そんな危険な…」

 

店主は事を未然に防いでくれた、

命の恩人なのかもしれない。

大きな音の後、沈黙を破るように言った。

 

「あの。あなたの名前は…」

 

「アイ リュウリョウさ。」

 

リュウさん…?____「聞き慣れないよなー。

いいよ、その呼び方で」

 

「すいません。東洋の名前は慣れなくて」

 

「それで、モニカお嬢さんは麻雀、できるかい?」

 

「はい。少しだけルールを知ってるくらいですが」

 

「これは、朝まで麻雀だな…」

 

楽しそうに笑う彼は私を引きとめた時からは

全く想像できない柔らかい表情をしていた。

 

そう言って彼は麻雀の牌を並べ始めた。

闇い街に日が昇るまではまだ時間がある。

 

 

episode6

「で?シャル、この女でいいの?」

 

「そうだけど?」

 

私そっちのけで男2人で会話する内容は、クラクラする頭にははいってこなかった。

「じゃ、逮捕するから」

 

「はっ?!なんの罪で!」

 

「飲酒と、これ、見覚えないとは言わせないから」

 

「知らない!そんな銃!」

 

「はいはい。さっさとパトカー乗って。」

 

あっけなく私は、捕まってしまった。

 

===================

 

「ん…」

 

___________記憶が。ない。

 

「どーも。お嬢さん。

二日酔いはしてないかい?」

 

「ええ。べつに」

 

ガチャ…

 

鉄格子の鍵が開けられる。私は捕まったことすら記憶にないのだ。

 

「ここ、座っとけ」

 

「手錠は…!」

 

「外すわけないだろ。待っとけって」

 

警官は資料を取りにどこかへ行ってしまった。

 

______________________________

 

「俺は、ジャンニーノ。君の取り調べを担当する。

記憶にないとは思うけど、君は逮捕された。

飲酒と銃刀法違反。分かる?」

 

「お酒を…飲んだのは、悪いと思ってる!」

 

「銃はどう説明するんだ?」

 

「分からないから、

私も、説明できないんでしょ!」

 

「故意に持ってないのは確からしいな。

保釈金だけ払ってもらえればいいから。

両親とか親戚とかいないわけ?」

 

「…いない」

 

「じゃ、楽しい監獄生活を」

 

「は?!!!!」

 

この国の警察は金は忘れず回収するたちらしい

 

_____________________

 

保釈金を払ってくれる人なんて居ないのを知っていながら、どこか少し期待していた。

 

_____誰かあの時みたいに、、

 

「おい。ジャン!!!

なんで逮捕者がいんだよ」

 

「まぁまぁ、分かったから」

 

「俺の金だぞ!?なんで他の、しかもこんなガキに支払わねーといけないんだよ」

 

鉄格子の遠く向こう側から怒鳴り声とそれをなだめる声が聞こえる。

 

「とりあえず、エルヴィス座ってって」

 

「早く、ガキ連れてこいよ」

 

______え?私?

 

「おーい。お嬢さん、人と会ってくれ」

 

鍵を開けられ手を引かれる。男と向かいあって座るが、男は鬼の形相で私を睨んでいた。

 

「おい。おまえな。これでいくら飛ぶか分かってるか?おまえを出すために300もかかってるんだよ!」

 

「そんなに怒るなら…いらないわよ」

 

「ああ?どの口がいってんだ!?

俺の護身用の銃まで盗みやがって。

しかも、

ボスの言いつけには俺も逆らえねーんだよ。

逆らえてたらおまえの脳天に鉛玉ぶち込んでる」

 

「…ボス?って、あの人?」

 

「ああ、あの人だよ!黙って聞け?

おまえは、俺たちの仲間だ。助けられるの知っといて仲間に迷惑はかけんじゃねー。

何もできないのに、迷惑ばっかかけられても困るんだ。分かるか?」

 

「…はい」

 

「とりあえず、おまえはここから出たら、このメモに書かれてる場所に行って人に会ってこい

それがボスからの伝言だ」

 

そう言って彼は現金の入ったカバンとタバコの吸い殻を置いて帰っていった。

 

「すごいだろー?あいつ。」

 

「あ。はい。かなり。 」

 

「でー、分かった?その指輪がどれだけの意味を持つか」

 

「はい…。でも、どうしてあなたは指輪をしていないのに、あの人に銃を返したり私の保釈金の手配をしてくれたり…」

 

「ほら、指輪は指につけるものだけど、仕事柄そんなことはできないからね」

 

彼は、ドッグタグと一緒に付いた指輪を私に見せた。

 

「おまえが思っている程、あいつらは悪いやつじゃないよ…あ。車が来たっぽい。

 

乗って。」

 

「なに、この高級車…。

   

 

ヴィヴィ…どうして…?」

 

「お嬢様、お久しぶりです。お迎えに上がりました」

 

死んだはずの彼がどうして私の目の前にいるのか私は見当もつかなかった。

episode5

夏になった。真夏のイタリアは雨の降ることのないカンカン照りが続いている。

 

私はあの日、部屋の壁に貼られていたあらゆる資料の記憶の断片を紙におこし、1人、真実を知るため調べ始めた。

 

孤児院を出て何処か部屋を探してこれからは

1人で生きていくつもりだ。

 

 

部屋を出て右手、階段を登ぼり、大きな廊下を突っ切るとあの部屋がある。ノックをせず、大きな音を立ててドアを開けた。

 

「私、ここを出ていく。ここからでて全てを自分の力で見つけるの。」

 

彼のデスクにまっすぐ向かいながら、少し震えた声で私はそう告げた。

 

「…そうか。」

 

彼は深く腰かけた椅子から立ち上がり、私の右手を取った。

 

「…なによ、」

 

「ん…。これ。付けとけ」

 

「なに。これ…」

 

「指輪だけど_______「なんで?」

 

「虫除けみたいなもんだよ。

…とにかく、付けとけ」

 

彼は私の人差し指に少しサイズの大きな指輪をはめた。

 

「あとは好きにしろ。」

 

「少しくらいは…世話になった。

   ありがとう

   さよなら。」

 

私は少ない荷物をまとめて孤児院を出た。

 

 

===================

 

孤児院を出た私は繁華街に来た。

日は随分と傾いていた。

 

私は一軒のクラブに入った。

多くのマフィアの溜まり場で、裏の情報が多く集まる場所だと聞く。

 

きらびやかなライト、大音量で流れる音楽でフロアが揺れる。

 

初めて踏み入れた世界は眩く輝いて、目が回った。正気を保つ為に、訳もわからず酒を口にする。フワッと身体が浮いた感覚に襲われる。

 

一気に熱っぽくなる。飲み慣れてない証拠だ

 

「…え? なんて、?」

 

声をかけられたものの、声が遠のいて聞こえない。強く手を引かれ、音楽もライトも少ないボックス席にひっぱられてしまった。

 

______なに…きこえない。。

 

揺れるような重低音が脳で共鳴して頭を揺らす

頭がいたい…。

 

「え…?情報…?」

 

_________あっ…殴られる…

 

全てがスローモーションに見えた。

 

 

「あの。情報は僕が持ってるから、その子、

離してくんないかな…?」

 

朦朧とする意識の中で、真っ白な髪が揺れるのを目がとらえた。

 

「さぁ。いくよ。肩かして。」

 

「んん…。」

 

「ごめん。あいつらに嘘ついた。走れる?」

 

「…え?」

 

「走って!!!!!」

 

酔いが回って、足がもつれながらも、私達2人は繁華街を抜け、知らない男達をまいたのだった。

 

「はぁ…はぁ____大丈夫?

  怪我…してない…?」

 

「…す。すいません…。ほんとに…」

 

「警察呼ぶから…待ってて…」

 

「いやっ…!大丈夫です。1人で帰れます」

 

「帰る場所もないくせに…?」

 

「いま、なんて…?」

 

「はぁ…バカだなぁ。君も。指輪。わかる?

   僕の手、見なよ」

 

「あっ…あいつの…。」

 

「そーだよ。物分かりは早いんだな」

 

彼は私と同じ指輪をはめていたのだ。

 

「どうして…わたしを。」

 

呆れたように笑う彼の姿は整い過ぎてみとれてしまいそうなほどだった。

 

「どうしてって。美人だったから…?

…と言うか、聞いてないわけ?

 ファミリーはお互い助け合うんだよ。

 死ぬ覚悟で。」

 

「私は。そんな仲間なんかじゃない」

 

「いいや。君もその指輪をはめてる時点で僕たちの仲間さ。だから助けてやった。ただそれだけ…。

  それで…?帰る気はないんだろう?」

 

「…」

 

「警察を呼ぶから、そこで待ってて」

 

「いいの?!警察にバレても!!」

 

必死放った言葉を聞いた瞬間、彼は、

ニヤッと笑った。

 

「警察に、僕たちの仲間が居ないと思うかい?

   やっぱり君はバカだ…」

 

 

遠くでサイレンの音が聞こえた。

 

 

episode 4

背中に突き付けられた銃の冷たさと、

張りつめた空気、

嗚咽を抑えながら少し荒くなった息遣い、

 

全てがその部屋の空気をひんやりとさせている要因となっていた。

 

銃を突きつけている本人は私の無意識の一言に少し驚いたようだった。

彼が今まで見てきた人間はきっと命乞いしかしてこなかったのだろう。

 

「革命も、私達の家を襲ったのも貴方たちが裏で手を引いていたのね…」

 

「これが僕らの仕事なもんでね_____はぁ…。

 

     少し、話そう。」

 

銃を下ろし、手を引いてテーブルの前まで私を連れイスを引いてくれる彼の行動はついさっきまで銃を突きつけていた人間だとは思えないなんとも自然なものだった。

 

「なにが聞きたい」

「全てよ…」

 

「全て…か…。すまないがこたえられない。」

 

「どうして…?!どうして両親は私をマフィアに預けたの。革命は起こるべきだった?私は…

私は、どうして生きているの…」

 

気づかないうちに、口から気持ちが溢れ出ていた。

 

「知る覚悟が出来てからきいてくれ。感情に踊らされている君に話すことはない。」

 

「…どうして。」

 

「1つだけ言っておこう。君をここで預かっているのは、僕でも、先生でもない。君の両親の願いだ。貴族である一家の子孫を残すため。

隣国からここまで歩いてこれる体力と、若さがが必要だった。」

 

彼が言う言葉に嘘は感じられなかった。

 

「わかったか…? もう、部屋に戻ってくれないか。ここがバレると困るんだ。」

 

書斎を飛び出し、自分の部屋に駆け込む。

扉を閉めたとたん。涙があふれた。

 

______どうして。両親は私をマフィアなんかに託したの…。

 

涙がこぼれ、疑問が頭の中を渦巻いて

知らぬ間に私は目を閉じていた。

 

===================

 

コンコン…

 

「モニカ。入ってもいいかな」

 

「ええ。」

 

あれから数日が経ち、かろうじて食べ物を口にできる程にまでは回復した。しかし、未だに部屋からは一歩も出れていない。

 

「モニカ。その…。僕の事を刺してもいい。

殴ってもいい。君のやり場のない気持ちが発散されるなら僕はなんでもする」

 

「それじゃあ、話して。私の事をどうして監視してたの。報告書にまとめて、アイツに!!

アイツに淡々と渡す作業は楽しかった?誕生日もイースターも一緒にお祝いしたじゃない…

あれは…嘘だったの…?」

 

私は先生の胸を沢山、力なく叩いた。

 

「ごめん…。謝ることしかできないんだ。

君たち家族と過ごした沢山のイベントはどれも本当楽しかった。すべて。」

 

「なら…。話してよ…」

 

涙を堪えて言葉が震えた。